To Far Away Times

間接的自己紹介

本末お天道様

日がすっかり沈んでいるのにアスファルトの熱気は全く収まる気配もなく、湿度も高めの気怠い夏の夜、友達の彼女と2人で食事をすることになった。お互い酒を飲むのでこんな日はまずはビールだと急いで店に入った。店内は涼しく、広々としていて雰囲気も良かった。照明はオシャレな店の通例でほんのり柔らかい。

その日友達は、彼女が俺と食事をすることを承知していた。もともと友達とその彼女と俺の3人で食事をする予定だったが、友達は仕事で来られなくなってしまったからだ。断っておくが、とくに俺にやましい気持ちがあったわけではない。偶然の成り行きである。

酒も進み、話も盛り上がり楽しい時間を過ごせた。そろそろ帰ろうかというところで、友達の彼女が、あたし実は他に付き合ってる人がいるんだよね、と言ってきた。突然の暴露に驚いたが冷静を装い、それって浮気ってこと?と聞くと、まぁそういうことになるよねと返ってきた。彼女はそんなの当たり前でしょといった表情を浮かべていた。その相手とは寝たの?と聞くと、そりゃ寝てないと浮気にはならないでしょ、ご飯食べるだけで浮気ならあんたとこうしているのだって浮気になるじゃない。あんたなんて物件お金を積まれたって無理、と言われた。最後の一言は余計な一言だったが、全くその通りの一言だったので反論はしなかった。それに、セックスをしない浮気もあるだろうと思ったがそれについての言及も控えた。

彼女の弁を要約すると、いつまで経っても進展しない関係に魔がさしたということだった。進展、というのはおそらく結婚のことだろう。付き合って10年くらい(同棲してからも数年経つ)になるし、お互いいい歳でもあるので、進展しないことへのヤキモキはわからないでもない。かと言って渋る男の気持ちもわからなくもない。しかしここでどちらかに共感を示すわけにはいかないと咄嗟に思い、頭を切り替えて、それじゃあ友達とは別れるの?と単刀直入に聞くと、それは全く考えていないということだった。浮気は浮気として割り切っている風だった。もう随分長く一緒にいるし、結婚はしていないけどもう家族みたいな感覚だから、と。家族みたいな感覚の人がいるのに浮気なんてするの?と思ったがそういうのも女の嗜みの1つなのかもと大人ぶって理解することにした。

彼女はひと通り打ち明け話をするとスッキリしたようで、じゃあ帰ろっかと言って席を立った。会計を済ませて店の外に出た。むわっとする湿気と先ほどの突然の話で肺と胃がもったりと重かった。彼女の話はただの報告という感じで、懺悔的な感情は一切含まれていなかった気がする。どうして俺に話しちまったんだ。これから友達に会った時、その事を考えちまうだろうが。

この話を友達に伝えるべきか、それとも黙っているべきか、以来ずっと悩んでいる。そんな妄想をした夏の夜。