To Far Away Times

間接的自己紹介

水面に揺れる桜かな

昔、ナナメールだかナインメールだかみたいなのがあった。ガラケー時代の話だ。今のスマホとは違い、ガラケーにはキャリアメールのアドレスが一つだけ。他のメールアドレスの取得はできなかった。できたかもしれないけど、当時の俺は知らなかった。そのナインメールだかナナメールというのは、キャリアのアドレスをアレンジして、別のメールアドレスを取得できるといったような、裏技的なものだった。(今調べてみると、ナナメールは画像保存のための裏技だったようだ)

ナインメール(本当にナインメールだったのかは定かではないが、ここでは便宜的にナインメールとする)を覚えた俺は、早速アドレスを取得した。そこには掲示板があって、いろんな人がサブアドを載せていた。自己紹介みたいなものが書いてあって、話題が合いそうな人にメールを送れるようだった。俺は何人かに送って、たぶん何人かとメールのやりとりをした。

今となっては覚えているのはその中の1人だけである。その人は女性で、俺よりずいぶん歳上だった。既婚者で、子どもは無し。話した内容は全くと言っていいほど覚えていないけれど、メールのやりとりはずいぶんしていた記憶がある。他愛のない話をしていて、ある時その人に言われたことがある。それもおぼろげだが、こんなようなことを言われた。「出会い系やってるのに全然会おうとしないね」俺は驚いた。わりと、かなり、驚いた。ナインメールの掲示板は、いわゆる出会い系の掲示板だったのだ。初心な俺は、そんなことも露知らず、ただメールのやりとりを楽しんでいただけだった。なんとなく恥ずかしい気持ちになった。相手の年上の人妻は、たぶん俺とは違う目的でそれを利用していたのだ。なんだか申し訳ない気持ちにもなった。童貞はそういうところに鈍いのだ。しかしそんなことを言われても、俺は特に会おうとも思わなかったらしい。それからも普通にやりとりをして、さらに何回か年賀状のやりとりをするまでに至った。しかしそれから俺の方に彼女ができたりなんだりあって、やりとりをしなくなってしまった。

何年か経って就職が決まり、その時なんとなく久しぶりにメールを送ってみようと思った。自分の名前を添えて、就職の報告メールを送った。すると、「どちらの◯◯さんですか?」と返事がきた。少なからずショックを受けた。あの人は今も元気だろうか。